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言語学と言語学オリンピック

JOL2019-5 コリマ・ユカギール語解説

ふるほむです!日本言語学オリンピック2019の第5問コリマ・ユカギール語の問題を解説します。解き慣れていない方にも読んでほしいと思って丁寧な解説を目指しました。長いですがお付き合いください。

解きなれている方へ: 基礎のまとめ以降が発展的な内容ですが, 最初の方も間々にアドバイスをはさんであるので読んでくださるとうれしいです!

問題

JOL2019-5 コリマ・ユカギール語

iolingjapan2019.pdf - Google ドライブ

難易度

★★★★☆(やや難)
目標タイム60分

(国内予選としては難。全部解けなくても40分で代表平均の15点を取れれば十分に力があると言える)

使う情報

  • 12個の対訳つき例文
  • データが文1〜8, 文9〜11, 文12と区切られている
  • (a) 4個の対訳なし例文

ポイント

  • 基礎を身につける
  • 根気よく試行錯誤・場合分けする
  • 視点は幅広く, 一つの音から文全体まで

解説

語彙を調べよう

まずは2回以上出てくる語に着目して語と訳を対応させていきましょう。たとえば文1, 10, 12を見ると最初の単語がすべて met です。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
10. met t'obulge jaraje 私は海で泳いだ。
12. met titul el mieje 私はあなたたちを待たなかった。

文1, 10, 12 の日本語訳に共通点があればそれが met に対応するものだと考えられます。よって met は「私」です。

他の語についても目についたものから同じ語が出てくる文をどんどん探していきましょう。たとえば adil や tudel, tet などが2回以上出てくるので訳の共通点を探すと

adil

コリマ・ユカギール語 日本語訳
2. adil numeget towkele ket'īm 若者は家からある犬を運んできた。
11. adil jaratej 若者は泳ぐだろう。

よって adil は「若者」

tudel

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
6. tudel numege mitkele mietem 彼は家で私たちを待つだろう。
7. tudel t'olhorole juötem 彼はあるうさぎを見るだろう。

よって tudel は「彼」

tet

コリマ・ユカギール語 日本語訳
3. tet metul juömek あなたは私を見た。
9. tet ahidūtejek あなたは隠れるだろう。

よって tet は「あなた」

と分かります。

発展 より厳密にやるなら, ある語が出てこない文の訳も見て, その語の訳が出てこないことを確認しましょう。ミスに気付けるほか, この先の分析で問題となる箇所がこの時点で分かることがあります。たとえば文3を見ると, 訳に「私」が出てくるのに met が出てきません。なので met = 「私」では少し説明不足(まちがいではない)で, さらなる分析が必要ということが分かります。内実はもう少し分析が進んでから見直せば良いのでここでは「私」として進めます。

いくつか語彙が分かってくると1回しか出てこない語でも分かるようになります。以下の2文を見てみましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
11. adil jaratej 若者は泳ぐだろう。
  • 文1のうち met は「私」, tudel は「彼」なので inabalugī が「嫌った」
  • 文11のうち adil は「若者」なので jaratej が「泳ぐだろう」

たとえばこのように消去法で語彙が分かります。他にもさらなる分析を進めるごとに語彙が分かっていきますが, 追い追い見ていくことにします。

語を分解しよう

今までのやり方でそれなりに語彙が分かりましたが, たとえば課題(a)の文13を見てみましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
13. t'olhoro adilget el ahidūj

t'olhoro も adilget も全く同一の語は他の文に出てきません。消去法でも分かりません。これまでのやり方に少し工夫を加える必要があります。t'olhoro に注目して以下の2文を見てみましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
5. terike t'olhorogele miem おばあさんはそのうさぎを待った。
7. tudel t'olhorole juötem 彼はあるうさぎを見るだろう。

t'olhoro を含む語が2つあります。 t'olhorogele と t'olhorole です。そこでこれらがそれぞれ t'olhoro と gele, t'olhoro と le のような複数のパーツから成り立っているのだと考えましょう。後はこれまで通り訳の共通点を探せば t'olhoro は「うさぎ」だと分かります。こんな風に語を分解していくのがポイントです。

ではこの gele や le というパーツは何なのでしょう?分かっている語彙が少ないこの段階では, こういう具体的な意味のなさそうなパーツは後回しにするのが得策です。こういうパーツがあることだけ頭の片隅に置くなり, メモ用紙にリストアップしておく(おすすめ)なりしておくと後の分析が楽になります。

これまでコリマ・ユカギール語で同じ語やパーツを探す→日本語訳 の方向で語彙を調べてきましたが, 逆方向の 日本語訳→○○語 も併用してみましょう。速く解けます。たとえば文7, 8を見ると「見るだろう」が共通しています。ただしコリマ・ユカギール語の方には全く同じ語はありません。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
7. tudel t'olhorole juötem 彼はあるうさぎを見るだろう
8. mit gōratke tetul juötej 私たちは町であなたを見るだろう

しかし最後の語 juötem と juötej がとても似ています。なのでこれらの共通部分 juöte が「見るだろう」に対応していて, 余りの (juöte)m や (juöte)j は何か別のことを表しているのだと考えられます。ここでも一旦 m と j は後回しにします。けっこう語彙が分かってきました。

発展 juötem と juötej の共通部分を juöte だけでなくたとえば juöt, juö, ju, j と考えることもできます。このようにどこで区切るか困ることが多々あります。どの分析が良いか判断するには, まずさらなるデータが必要です。データが集まり切ったら以下の基準を用いて判断すると良いでしょう。
  1. 原則, その言語の法則をシンプルに説明できる方が良い。多くのデータを統一的に簡潔に説明できる分析は良い分析。
  2. 特に役割のないパーツができてしまう分析は良くない。
  3. 説明の量が変わらないなら, 文法的な機能を果たす部分を長くとる方が良い。

語やパーツの並び順を考えよう

個々の語やパーツが分かったら, その並び順がどうなっているのか分析しましょう。並び順を考えることで語彙がほぼすべて分かるようになります。文4を見てみましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
4. tit abut ket'ītemet あなたたちは袋を運んでくるだろう。

この文の語はまだ一つも分かっていませんでしたが, 語順から3つとも一発で分かります。いくつか文を振り返ってみましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
5. terike t'olhorogele miem おばあさんはそのうさぎを待った。
7. tudel t'olhorole juötem 彼はあるうさぎを見るだろう。
11. adil jaratej 若者は泳ぐだろう。

上3つの文1, 5, 7を見るとどれも日本語の「Aは Bを Cする」がコリマ・ユカギール語では A B C の順で並んでいます。つまりこの言語の語順は

主語 目的語 動詞

です。文11のように目的語がない場合もあるので

主語 (目的語) 動詞

と書いておきます。

この並び順を文4にもあてはめると, tit が「あなたたち」, abut が「袋」, ket'ītemet 「運んでくるだろう」と分かります。

発展 必ずしも語順が常に一緒とは限らないので, 違う分析方法で検証をすると良いです。cf: 文法関係

さらにうれしいことに並び順が分かるとパーツから語や文が組み立てられるようになります。並び順は問題(b)を解く鍵の一つです。

発展 語順や語の内部構造は国際大会以上で要求される文法説明の対象でもあります。

文法的なパーツを調べよう

これまで具体的な意味のある語彙に着目してきました。ここからはより抽象的な, 文法的なパーツの方にも目を向けていきます。具体的な語彙と手順は同じです。以下の文2, 6, 15を見ましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
2. adil numeget towkele ket'īm 若者は家からある犬を運んできた。
6. tudel numege mitkele mietem 彼は家で私たちを待つだろう。
15. terike numele inabalugīm

まずは分解しましょう。 nume は「家」です。では numeget の get, numege の ge, numele の le はなんでしょうか?もう少し他の文も見てみましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
10. met t'obulge jaraje 私は海で泳いだ。
14. tet gōratke t'obul juötemek

文10の t'obulge は文14に t'obul があることから, t'obul と ge に分解できます。

t'obul の意味はこれまで通りの方法で分かるでしょう。文11の jaratej 「泳ぐだろう」と似ているので, 文10の最後の語 jaraje は「泳いだ」。よって t'obul は消去法で「海」。

ここでも ge が出てきました。2つの文を並べてみましょう。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
6. tudel numege mitkele mietem 彼は家で私たちを待つだろう。
10. met t'obulge jaraje 私は海で泳いだ。

よって ge は「~で」です。並び順も気にしてみると語の中心である「家, 海」などのパーツの後ろ側につく接尾辞であるのが分かります。 -ge のように - をつけると良いでしょう。

-get も対訳つきの例文は一回しか出てきていませんが, 並び順で分かります。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
2. adil nume-get towkele ket'īm 若者は家からある犬を運んできた。
13. t'olhoro adilget el ahidūj

よって -get は「~から」です。

語順もアップデートします。

主語 (「〜で, ~から」) (目的語) 動詞

el も分析できると思います。el が出てくる文と出てこない文の違いを見ましょう。

el あり

コリマ・ユカギール語 日本語訳
12. met tit-ul el mie-je 私はあなたたちを待たなかった。

el なし

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
2. adil numeget towkele ket'īm 若者は家からある犬を運んできた。
3. tet metul juömek あなたは私を見た。
4. tit abut ket'ītemet あなたたちは袋を運んでくるだろう。
5. terike t'olhorogele miem おばあさんはそのうさぎを待った。
6. tudel numege mitkele mietem 彼は家で私たちを待つだろう。
7. tudel t'olhorole juötem 彼はあるうさぎを見るだろう。
8. mit gōratke tetul juötej 私たちは町であなたを見るだろう。
9. tet ahidūtejek あなたは隠れるだろう。
10. met t'obulge jaraje 私は海で泳いだ。
11. adil jaratej 若者は泳ぐだろう。

el があるときに限り否定文になります。よって el は否定を表します(el がないと肯定文)。

補足ですが el は何かにくっつけて書かれていないので -ge のように - をつけることはしません。*1

-ge や el は分かりやすいですが, より抽象的な文法上の役割を持つパーツの場合そう簡単にいかない場合もあります。たとえば 文7, 8で出てきた -m, -j がそれぞれ何を表しているかは中々分かりづらいです。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
7. tudel t'olhorole juötem 彼はあるうさぎを見るだろう
8. mit gōratke tetul juötej 私たちは町であなたを見るだろう

こういうパーツを分析するコツはとにかく手を動かすことです。具体的には

  • 語を分解する
  • 同じパーツに色を塗る
  • 意味は一旦置いておいてパーツをリストアップする
  • 並び順を手がかりにパーツをグループ分けする

など。まずは作業をしましょう。作業しているうちに色んなことに気づいていきます。考えるのはそれからです。

発展 何問も解いて色んな言語学の本も読んで経験も知識もついてきたら自分の知っている言語現象と照らし合わせながら分析して見ましょう。速く深く解けます。

では分析は一旦置いておいて動詞の分解を済ましてしまいましょう。動詞ごとにデータを整理して照らし合わせます。紙面上なら同じパーツに色を塗り色分けすると手間取らずに見やすく整理できます。パーツの境界を - で表します。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
3. tet metul juö-mek あなたは私を見た。
7. tudel t'olhorole juö-te-m 彼はあるうさぎを見るだろう。
8. mit gōratke tetul juö-te-j 私たちは町であなたを見るだろう。
14. tet gōratke t'obul juö-te-mek

-te と分解できることはパーツの役割を分析するとちゃんと確かめられます。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
5. terike t'olhorogele mie-m おばあさんはそのうさぎを待った。
6. tudel numege mitkele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
12. met titul el mie-je 私はあなたたちを待たなかった。
コリマ・ユカギール語 日本語訳
2. adil numeget towkele ket'ī-m 若者は家からある犬を運んできた。
4. tit abut ket'ī-te-met あなたたちは袋を運んでくるだろう。
16. tudel abutkele el ket'ī-te-j
コリマ・ユカギール語 日本語訳
9. tet ahidū-te-jek あなたは隠れるだろう。
13. t'olhoro adilget el ahidū-j
コリマ・ユカギール語 日本語訳
10. met t'obulge jara-je 私は海で泳いだ。
11. adil jara-te-j 若者は泳ぐだろう。
コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
15. terike numele inabalugī-m

動詞以外もやってください。

次に文法的なパーツをリストアップし, どこにつくかによってグループ分けしてみました。どこで分解すればいいか分からないものは語を丸ごと書いて(?)をつけました。

どこにつく? パーツ
主語 何もつかない
「〜で」系 -ge, -get, gōratke(?)
目的語 -gele, -le, -ul, -kele, 何もつかない, towkele(?)
動詞語幹 -te, -mek, -m, -j, -je, -met, -jek, 何もつかない
動詞の前 el

語幹 とはざっくり言えばこういう何かにつくパーツ(接辞)を取った部分のことです。

このパーツの役割(使い分け)・並び順を解明し, 課題を解くことがこの問題のゴールです。ただし課題は分析のヒントになるので後回しにせず並行して進めましょう。この記事では解説の都合上後回しにしていますが, 分析が進むたびにチャレンジすると良いです。

音のレベルの使い分け

gōratke 「町で」について考えましょう。これまでの分析で「~で」は -ge だと分かっていますが, 「町で」には -ge が出てきません。仮説としては

  1. -ge の他に全然違う役割だが訳すと「~で」になるパーツがある
  2. -ge がついているが, 少し音が変わってしまった

が考えられます。1は形のレベルでの使い分け, 2は音のレベルでの使い分けを想定する仮説です。どちらの可能性もありますが1は証拠が足りないので2で説明してみましょう。

k と g は似た音です。日本語でも k が g になる, g が k になる場合があります。

  • 「かな」 > 「ひらがな」
    kana > hira-gana
  • "bag" > 「バック」
    bag > (bak) > bakku

k と g というのは「濁っている」かどうかの違いしかありません。言語学の用語では k の方を「無声音」と言い g の方を「有声音」と言います。似た音なので置き換わってしまうケースが世界の色々な言語であります。

なのでこの言語でも -ge が -ke になることがあるとすれば gōrat-ke と分析できます。しかしどんなときに -ke になるのでしょう?

似た関係のパーツも探してみましょう。 -gele と -kele があるので合わせて見てみます。音を考える際は音読してみるのも良いでしょう。

g になる

コリマ・ユカギール語 日本語訳
5. terike t'olhoro-gele mie-m おばあさんはそのうさぎを待った。
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
10. met t'obul-ge jara-je 私は海で泳いだ。

k になる

コリマ・ユカギール語 日本語訳
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
8. mit gōrat-ke tet-ul juö-te-j 私たちは町であなたを見るだろう。
14. tet gōrat-ke t'obul juö-te-mek
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j

k になる方がどれも 「~ ットゥケ」と発音するのに気づくと思います。ちゃんと言うなら,

g は t の直後で k に置き換わる

です。シンプルに説明できました。tg は tk になる, と言っても良いです。ということは -get も t の後では -ket になるでしょう。このように

  1. どんな条件で
  2. 何が何になる

をまとめましょう(「音韻規則」という)。

発展 なんで g が t の直後で k に置き換わるのかというと, t が無声音, g が有声音で, 無声音と有声音が隣り合うのがいやだったからでしょう。これを嫌う言語は体感ですがたくさんあります。いやな連続を避けるためにどちらかがもう片方に合わせて同じ性質を帯びる(「同化する」という)ことも体感上よくあります。

今回は音のレベルでの違いでしたが, 仮説1のような「-ge の他に全然違う役割だが訳すと『~で』になるパーツがある」ケースも多々あります。これは日本語と分析対象の言語の文法でパーツの使い分けが違うためです。*2 実際に分析をする上で「訳に出てこない使い分け」というのはつかみ取りにくく厄介です(その分, 分かったときの感動は大きい!)。慎重に分析しつつ, なるべく多くの仮説を立ててなんども試行錯誤する根気が求められています。

対立・内部構造を意識しよう

-te を分析しましょう。-te が出てくる文と出てこない文の違いを見つけましょう。

-te あり

コリマ・ユカギール語 日本語訳
4. tit abut ket'ī-te-met あなたたちは袋を運んでくるだろう。
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
7. tudel t'olhoro-le juö-te-m 彼はあるうさぎを見るだろう。
8. mit gōrat-ke tet-ul juö-te-j 私たちは町であなたを見るだろう。
9. tet ahidū-te-jek あなたは隠れるだろう。
11. adil jara-te-j 若者は泳ぐだろう。
14. tet gōrat-ke t'obul juö-te-mek
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j

-te なし

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
2. adil nume-get towkele(?) ket'ī-m 若者は家からある犬を運んできた。
3. tet met-ul juö-mek あなたは私を見た。
5. terike t'olhoro-gele mie-m おばあさんはそのうさぎを待った。
10. met t'obul-ge jara-je 私は海で泳いだ。
12. met tit-ul el mie-je 私はあなたたちを待たなかった。
13. t'olhoro adil-get el ahidū-j
15. terike nume-le inabalugī-m

よって -te は「~するだろう」です。ここで注意!-te がない場合は「~た」になります。パーツの役割を考えるときはそれ自体の機能を考えると同時に他のパーツとの対立(=使い分け)を意識しましょう。対立を意識すると, 「何もつかない」ことが役割を持っていることが分かるでしょう。この先「何もつかない」を ∅ と表すことにします。

対立と内部構造はセットで考えましょう。対立があるパーツ同士は構造上同じ位置に出てくることが多いからです。

動詞語幹 時制 ?
色々
  • -te: 「~するだろう」(未来)
  • -∅: 「~した」(過去*3 )
-mek, -m, -j, -je, -met, -jek, -∅

もう課題(a)がほぼ解けるはずです。太字の部分は未分析の「~を」の部分です。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
13. t'olhoro adil-get el ahidū-j うさぎは若者から隠れなかった。
14. tet gōratke t'obul juö-te-mek あなたは町で海を(?)見るだろう。
15. terike nume-le inabalugī-m おばあさんは家を(?)嫌った。
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j 彼は袋を(?)運んでこないだろう。

基礎のまとめ

ここまでできればJOL銀メダルのトップレベルです。ここから先はJOL金メダルレベルです。ここまでのことが基礎となるのでまとめておきます。

  • まずは作業をする。分析は後!(パーツを捉えないまま意味の分析はできない)
    • 語を分解する
    • 同じパーツに色を塗る*4
    • 意味は一旦置いておいてパーツをリストアップする
    • 並び順を手がかりにパーツをグループ分けする
  • パーツ・構造(並び順)・対立(使い分け)の3点セットで分析する
    • パーツの分析は具体的→文法的がスムーズ
    • 語順も語の内部構造も分析する
    • 訳に出てこない使い分けに注意
  • 音が変わることもある
    • 「どんな条件で何が何になる」と一般化する

訳に出てこない使い分け

パーツリストにこれまでの分析で分かったことを書き加えました。

どこにつく? パーツと使い分け
主語 -∅: (特に使い分けなし)
場所を表す語
  • -ge/-ke: 「~で」
  • -get/-ket: 「~から」
目的語 -gele/-kele, -le, -ul, -∅, towkele(?)
動詞語幹の直後
  • -te: 未来
  • -∅: 過去
動詞の最後 -mek, -m, -j, -je, -met, -jek, -∅
動詞の前
  • el: 否定
  • ∅: 肯定

今分かっていないのは

  1. 目的語につくパーツの使い分け
  2. 動詞の最後につくパーツの使い分け

です。この二つは先述した「訳に出てこない使い分け」があります。どっちからやてもいいですが, 今回は目的語の方から分析します。

目的語につくパーツは 4種類, -gele, -le, -ul, -∅ があります。各パーツごとに文を分類してみましょう。

-gele/-kele

コリマ・ユカギール語 日本語訳
5. terike t'olhoro-gele mie-m おばあさんはそのうさぎを待った。
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j 彼は袋を(?)運んでこないだろう。

-le

コリマ・ユカギール語 日本語訳
7. tudel t'olhoro-le juö-te-m 彼はあるうさぎを見るだろう。
15. terike nume-le inabalugī-m おばあさんは家を(?)嫌った。

-ul

コリマ・ユカギール語 日本語訳
3. tet met-ul juö-mek あなたは私を見た。
8. mit gōrat-ke tet-ul juö-te-j 私たちは町であなたを見るだろう。
12. met tit-ul el mie-je 私はあなたたちを待たなかった。

-∅

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī 私は彼を嫌った。
4. tit abut ket'ī-te-met あなたたちは袋を運んでくるだろう。
14. tet gōratke t'obul juö-te-mek あなたは町で海を(?)見るだろう。

towkele(?) 分解できていない

コリマ・ユカギール語 日本語訳
2. adil nume-get towkele(?) ket'ī-m 若者は家からある犬を運んできた。

参考: そもそも目的語がない

コリマ・ユカギール語 日本語訳
9. tet ahidū-te-jek あなたは隠れるだろう。
10. met t'obul-ge jara-je 私は海で泳いだ。
11. adil jara-te-j 若者は泳ぐだろう。
13. t'olhoro adil-get el ahidū-j うさぎは若者から隠れなかった。

これらの文の違いを説明できれば良いわけです。なんでしょう?観察して試行錯誤してください。

観察

  • -ul がつく文は目的語がすべて「私」や「あなた」のような人称代名詞→仮説1
  • 「その」と -gele, 「ある」と -le が関係していそう。→仮説2, 3
  • -∅ のときは「その」も「ある」もつかない→仮説4

試行錯誤

  • 仮説1: 「私」や「あなた」のような人称代名詞なら -ul がつく
    →反例: 文1では「彼」に -∅ がつく。
  • 仮説1': 「私」や「あなた」のような1/2人称の人称代名詞なら -ul がつく
    →反例: 文6では「私たち」に -gele/-kele がつく
  • 仮説2: 「ある」がつくなら -le がつく
    →正しい。逆も真。よって文2の towkele は towke-le。
  • 仮説3: 「その」がつくなら -gele がつく
    →正しい。ただし, 逆は -gele がついても「その」がつかないものもある。
  • 仮説4: 「その」も「ある」もつかない普通名詞なら -∅
    →正しい。逆も真。

仮説1を延長して考えてみましょう。1/2人称の人称代名詞が目的語のもののうち -ul がつくのは……

-ul

コリマ・ユカギール語 日本語訳
3. tet met-ul juö-mek あなたは私を見た。
8. mit gōrat-ke tet-ul juö-te-j 私たちは町であなたを見るだろう。
12. met tit-ul el mie-je 私はあなたたちを待たなかった。

-gele/-kele

コリマ・ユカギール語 日本語訳
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。

主語も1/2人称の場合?たしかに先ほどの分類を見返すと目的語というよりも主語の方がきれいに分かれています。

仮説5: 主語と目的語の人称によって目的語につくパーツが使い分けられる。

表にしてみます(縦軸が主語, 横軸が目的語)。

主語\目的語 1/2人称 3人称
1/2人称 -ul -∅
3人称 -gele/-kele -gele/-kele, -le

仮説2~4も加味して, 「その」, 「ある」の違いを考えると

主語\目的語 1/2人称 3人称「その」 3人称「ある」
1/2人称 -ul -∅ -∅
3人称 -gele/-kele -gele/-kele -le

分類できました。

「定」という概念を知っていれば「その~」と1/2人称が同じ扱いをされるのも納得できるでしょう。「その~」のように何を指しているのか聞き手が分かるのが定です。「私」とか「あなた」とか言われればだれを指しているのか分かるので, これらも定です。一方「あるとき~あるところに~あるおばあさんが~」と言われても, いつ・どこ・どのおばあさんなのか分からないので定ではありません(不定という)。

1/2人称と3人称を区別するのは, 会話に加わっている(談話参与)かどうかです。

この使い分けの分析の難しいポイントは2つあります。

  1. 訳に出てこない・日本語にない区別をする
  2. 目的語につくパーツの使い分けなのに主語も見ないと分からない

特に2, 詰まったときは文全体*5 視野を広げて試行錯誤をしてみると良いと思います。

課題(a)を直します。

コリマ・ユカギール語 日本語訳
13. t'olhoro adil-get el ahidū-j うさぎは若者から隠れなかった。
14. tet gōratke t'obul juö-te-mek あなたは町で海を見るだろう。
15. terike nume-le inabalugī-m おばあさんはある家を嫌った。
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j 彼はその袋を運んでこないだろう。

融合的なパーツと中和

次は動詞の最後につくパーツを考えましょう。パーツごとにデータを分類していきます。種類が多いので頻度の高い順に並べておきます。

-m

コリマ・ユカギール語 日本語訳
2. adil nume-get towke-le ket'ī-m 若者は家からある犬を運んできた。
5. terike t'olhoro-gele mie-m おばあさんはそのうさぎを待った。
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
7. tudel t'olhoro-le juö-te-m 彼はあるうさぎを見るだろう。
15. terike nume-le inabalugī-m おばあさんはある家を嫌った。

-j

コリマ・ユカギール語 日本語訳
8. mit gōratke(?) tet-ul juö-te-j 私たちは町であなたを見るだろう。
11. adil jara-te-j 若者は泳ぐだろう。
13. t'olhoro adil-get el ahidū-j うさぎは若者から隠れなかった。
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j 彼はその袋を運んでこないだろう。

-mek

コリマ・ユカギール語 日本語訳
3. tet met-ul juö-mek あなたは私を見た。
14. tet gōratke(?) t'obul juö-te-mek あなたは町で海を見るだろう。

-je

コリマ・ユカギール語 日本語訳
10. met t'obul-ge jara-je 私は海で泳いだ。
12. met tit-ul el mie-je 私はあなたたちを待たなかった。

-met

コリマ・ユカギール語 日本語訳
4. tit abut ket'ī-te-met あなたたちは袋を運んでくるだろう。

-jek

コリマ・ユカギール語 日本語訳
9. tet ahidū-te-jek あなたは隠れるだろう。

-∅

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī-∅ 私は彼を嫌った。

同様に観察して試行錯誤してみましょう。

観察

  • 全体的に主語によって決まってそう。
  • -m がつくときは主語が3人称単数→仮説1
  • j がつくときはよく分からない(主語は3つが3人称単数, 1つが1人称複数)
  • mek がつくときは主語が2人称単数→仮説2
  • je がつくときは主語が1人称単数→仮説3
  • 他はデータが一つずつしかないので共通点を探せない

試行錯誤

  • 仮説1: 主語が3人称単数なら -m がつく。
    →反例: 文11, 13, 16は -j がつく。
  • 仮説2: 主語が2人称単数なら -mek がつく
    →反例: 文9 は -jek がつく。(-ek?*6 )
  • 仮説3: 主語が1人称単数なら -je がつく
    →反例: 文1は -∅ がつく

主語が関わってはいそうなのに, どれも反例が出て来てしまいます。-j の主語が2種類ありえるのも不思議です。

仮説1の延長で, 3人称主語の文のうち, 動詞の最後が -m のものと -j のものの違いを考えましょう。

-m

コリマ・ユカギール語 日本語訳
2. adil nume-get towke-le ket'ī-m 若者は家からある犬を運んできた。
5. terike t'olhoro-gele mie-m おばあさんはそのうさぎを待った。
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
7. tudel t'olhoro-le juö-te-m 彼はあるうさぎを見るだろう。
15. terike nume-le inabalugī-m おばあさんはある家を嫌った。

-j

コリマ・ユカギール語 日本語訳
11. adil jara-te-j 若者は泳ぐだろう。
13. t'olhoro adil-get el ahidū-j うさぎは若者から隠れなかった。
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j 彼はその袋を運んでこないだろう。

-m は目的語がありますが -j は目的語がありません。他の人称についても目的語のあるなしで別のパーツがつくか調べてみましょう。

表にしたものがこちらです(縦軸が人称, 横軸が数; ―― は「データなし」を表す)。

目的語あり

単数 複数
1人称 -∅, -je -j
2人称 -mek -met
3人称 -m, -j ――

目的語なし

単数 複数
1人称 -je ――
2人称 -jek ――
3人称 -j ――

かなりすっきりしました! -j の謎も解けました。こんな風に「一つのパーツにいくつもの対立要素が絡んでくる」(融合的という)場合もあります。

しかし目的語ありの1人称単数と3人称単数で2つパーツが出て来てしまっています。よく見ると片方は目的語なしのものと同じです。データを見ましょう。

目的語ありなのに, 目的語なしのパーツが出てくるケース

コリマ・ユカギール語 日本語訳
12. met tit-ul el mie-je 私はあなたたちを待たなかった。
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j 彼はその袋を運んでこないだろう。

目的語ありで, 目的語ありの方のパーツが出てくるケース

コリマ・ユカギール語 日本語訳
1. met tudel inabalugī-∅ 私は彼を嫌った。
2. adil nume-get towke-le ket'ī-m 若者は家からある犬を運んできた。
5. terike t'olhoro-gele mie-m おばあさんはそのうさぎを待った。
6. tudel nume-ge mit-kele mie-te-m 彼は家で私たちを待つだろう。
7. tudel t'olhoro-le juö-te-m 彼はあるうさぎを見るだろう。
15. terike nume-le inabalugī-m おばあさんはある家を嫌った。

よって否定の el があると目的語ありなのに, パーツは目的語なしのものを使うと分かりました。

用語の紹介: 目的語を持ちうる動詞を他動詞, 目的語を持たない動詞を自動詞と言います。目的語のあるなしを自他といいます。

まとめるとこの動詞の最後のパーツは
「原則, 主語の人称・数と動詞の自他によって使い分けられる。ただし否定文の場合は自他の区別がなくなり(中和し), 自動詞用のパーツ(接辞)が使われる」。

発展 なんでこんな現象が起きるのでしょうか?ざっくり言えば, この言語は主語が他の何かに影響を与えるかどうかを気にします。他動詞文であれば他の何かに影響を与え, 自動詞文であれば他の何かに影響を与えないわけですが, 否定がついて「~しないだろう, ~しなかった」ということになると他動詞でも他の何かに影響を与えないわけです。なので否定で他動詞が自動詞活用するんだそうです。否定の他にも「うっかり~しちゃった!」という無意志を表すパーツがついても自動詞活用になるそうです。他動詞らしさというのはいくつもの要素が絡み, 結果として連続的な段階を見せるんですね。詳しくは長崎 (2015) コリマ・ユカギール語における否定と他動性 : HUSCAP をお読みください。

まとめ

長い道のりだった……。とにかく基礎は重要です!あとは試行錯誤!一週間後*7のJOL2020がんばってください!

課題を解いて, 文法をまとめます。

課題(a)

コリマ・ユカギール語 日本語訳
13. t'olhoro adil-get el ahidū-j うさぎは若者から隠れなかった。
14. tet gōratke t'obul juö-te-mek あなたは町で海を見るだろう。
15. terike nume-le inabalugī-m おばあさんはある家を嫌った。
16. tudel abut-kele el ket'ī-te-j 彼はその袋を運んでこないだろう。

課題(b)

日本語訳 コリマ・ユカギール語
17. あなたは海で泳いだ。 tet t'obulge jarajek
18. 私たちはうさぎを待った。 mit t'olhoro miej
19. 犬は町からあなたを運んできた。 towke gōratket tetkele ket'īm
20. 彼はその犬を待つだろう。 tudel towkegele mietem
21. あなたは私たちを見なかった。 tet mitul el juöjek

文法

1. 語順

主語 (「〜で, ~から」) (目的語) (否定) 動詞

2. 名詞(主語, 「〜で, ~から」, 目的語)
2.1. 構造と使い分け

語幹 -パーツ(格という)
色々
  • -∅: 主語につく
  • -ge/-ke: 「~で」
  • -get/-ket: 「~から」
  • 目的語につくパーツは2.2で詳しく

2.2. 目的語につくパーツの使い分け

主語\目的語 1/2人称 3人称「その」 3人称「ある」
1/2人称 -ul -∅ -∅
3人称 -gele/-kele -gele/-kele -le

3. 否定と動詞
3.1. 構造と使い分け

否定 語幹 -時制 -主語人称.自他
  • el: 否定
  • ∅: 肯定
色々
  • -te: 未来
  • -∅: 過去
3.2で詳しく

3.2. -主語人称.自他 の使い分け

他動詞(目的語あり)

単数 複数
1人称 -∅ -j
2人称 -mek -met
3人称 -m ――

自動詞(目的語なし)

単数 複数
1人称 -je ――
2人称 -jek ――
3人称 -j ――

原則, 主語の人称・数と動詞の自他によって使い分けられる。ただし否定文の場合は自他の区別がなくなり(中和し), 自動詞用のパーツ(接辞)が使われる

4. 音韻規則

g は t の直後で k に置き換わる

参考文献

Maslova, E (2003) A grammar of Kolyma Yukaghir. Berlin & New York: Mouton de Gruyter.
長崎郁 (2015) 「コリマ・ユカギール語における否定と他動性」『北方言語研究』5: 15-24. http://hdl.handle.net/2115/58324

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*1:パーツとパーツの間の記号はざっくり言ってそのパーツ同士の結びつき具合によって使い分けられています。-, =, #, +, ~, <> などがありますが, 与えられたデータでは結びつき具合を測り切れないので, 語内部のパーツ同士を区切るときに - を使う, というのでよいと思います。なおこれらの記号はそれぞれ接辞, 接語, 語, 複合語内部の語幹, 重複, 接中辞の境界をふつう指します。長崎 (2015) によれば el は接語で, el= と書けるそうです。

*2:どちらの言語がより世界を厳密に表現できているか, といった違いではありません。

*3:問題中のデータからは分かりませんがより正しくは非未来だそうです

*4:もしくは下線・波線・四角で囲む……など印のつけ方を工夫すれば黒だけでもできる。ぱっと見で区別できるようにできればOK

*5:いくつも文が連なったデータであればさらに前後の文や文章全体にも

*6:こう分析しても良いです(Maslova (2003) もこう分析しています)が, -m(-ek), -j(-ek) の対立が一部の人称・数に限定されていることを合わせて記述してください。説明がごちゃごちゃするといやなのでこの解説ではこう分析はしません

*7:2019年12月21日現在

いろは言オリ 草案

ふるほむです!この記事は予告と備忘録と言オリ布教活動のためのたたき台として書いています。

ウェブ教科書を書くよ

実は言語学オリンピックのための勉強は言語学の勉強をするとできちゃうんですが, 言オリの趣旨/醍醐味である「問題から入る」ような構成になっている日本語で書かれた言語学の教科書はほとんどありません(管見の限り)。

そこで言オリの問題を解くことを主軸に据えた入門シリーズを作りウェブ上に公開して行こうと思います。

構成

全体の構成としてはとっつきやすいものから始めます。必要とする知識や手法でレベルを3段階くらいに分け, レベルごとにさらにジャンルで分けます。ジャンルも形態・統語→音韻・文字→意味による使い分けのように進めていきます。

1つ1つの内部構成はまず問題を解き, 次にその問題の解説をしながら手法・知識を一般化し, 最後に作業経験を積むための練習問題(と解説)という3段構成を基本として進めます。

最初からできそう・できなさそうなこと

  • ある程度は形態素に分節できる。体系を考慮した分節はできない。文法的な要素も訳ベースでコピペならできる。訳に出ていない形式の区別は基本的に分からない。構造に関しては英語か日本語と同じかどうかは分かる。体系立てるのは文法範疇の知識が必要なので基本的にできない。構造や体系から演繹はできない。類型論を考慮できない。
  • 命数は日本語と一対一置換になっているものなら解ける。底の倍数が独自系列を持っているくらい(加算と乗算の範囲内)なら解ける。上記の形態論, 下記の音韻論における問題の他, 非十進数の累乗や補助的な乗算, 減数法, 序数を使うものは分からない。
  • 音韻は音素配列も異音も分からない。音素・音類を立てて異音規則を設定できない。音声特徴や類型論を考慮できない。音節は立てられない。アクセント・トーンやプロソディーは分からない。
  • 文字は初期方向は分かる。与えられた発音が過不足なく表記されていれば解けるが, 一部の音が書かれなかったり音と文字が一対一でない場合は分からない。

到達目標

大体この構成のままタイトルだけ変えて目次にする予定

  • 1. 入門レベル
    • 1.1. 語を2つの要素に分節できる
    • 1.2. 要素の順序を記述できる
    • 1.3. 体系を表にして空き間を埋められる
    • 1.4. 異形態の考え方ができる
  • 2. 基礎レベル
    • 2.1. 形態
      • 2.1.1. 体系を意識して分節できる
      • 2.1.2. よりsyntheticな語を分節できる
      • 2.1.3. 構造から演繹して語彙を割り出せる
      • 2.1.4. 構造の違いと意味の違いを結び付けられる
      • 2.1.5. (訳に出るが)fusionalな形態素を分節し体系化できる
      • 2.1.6. 訳に出ない要素の体系を立てられる
    • 2.2. 音韻
      • 2.2.1. 音声特徴を踏まえた異音規則が立てられる
      • 2.2.2. 音節を踏まえた異音規則が立てられる
      • 2.2.3. 超分節要素を扱える
    • 2.3. 形態→命数
      • 2.3.1. 桁に分け, 底と基本数を区別できる
      • 2.3.2. 非10進数
      • 2.3.3. 補助底
    • 2.4. 音韻→文字
    • 2.5. 形態→意味や語用論的区別 名詞クラスや定性 or3節に回す
  • 3. 発展レベル
    • 構造と体系の記述ができる。→記述対策
    • 基礎で一通り習得した手法を組み合わせて使える。→網羅はできないが多数のケースを扱う
    • 類型知識・理論を適用できる→それぞれについてある程度教科書的に扱う

+参考文献リスト。世の中の言語学について一般向けに書かれた本や記事やブログへの案内。

言オリの出題範囲

ふるほむです。この記事は言オリの出題範囲, つまり国際言語学オリンピックで出題された問題が言語学のうちのどの分野をカバーしているのか, 求められる知識は何なのかを示します。具体的な話はしませんが, 言オリと言語学の関連性が知れたり, 言オリから言語学に入る人が今までの経験を位置づけるのに役立ったりするかもしれません。

より具体的なジャンル分けの話もこの先記事にする予定です。もっと具体的なジャンルごとの解説はこれから書くウェブ教科書の一部として載せると思います。

言オリで出る言語学の領域

やることは言語の記述

言語学とは言語を研究する学問なわけですが, ひとえに言語学といっても研究領域が幅広すぎるので扱う対象や方法, 目的, 歴史的経緯によって様々な下位領域に分けられています。例えば以下のような分類があります。

  • 研究段階の違い (観察→記述→説明)
  • 一つの言語を見るか・いくつかの言語を比較対照するかの違い
  • 記述文法と規範文法の違い
  • 共時的 (ある一時代における言語体系を見る)・通時的 (歴史的な変化を見る) の違い
  • ランガージュ (ヒトが持つ言語能力)・ラング (ヒトが社会的に共有している言語)パロール (個人の発話) の違い

言語学オリンピックも言語学の研究領域をすべてカバーしているわけではありません。国際言語学オリンピックで出題された問題でやるべきことのほとんどは「記述言語学」の分野に収まっています。言語を記述する際には捉えるべきものを捉えられるように上で述べた分類のうち太字になっている方の特徴をおさえておく必要があります。一つずつ見ていくと

  • 研究の段階としては言語データの収集, 分析, 調査 (観察) と観察結果の一般化 (記述) をするものであり, なにか理論に基づいて現象の動機を説明するものではありません。
  • 観察・記述は個々の言語ごとに行い, ある言語と他の言語の相違点を見るのはまた違う研究です。
  • 今使われている言語のありのままの姿(記述文法)を研究対象とし, 教育や統治のために作られた文法である規範文法はふつう研究対象としません。
  • 同様に観察・記述はある時代の言語の状態に限定して行い, 歴史的な変化を考慮するのはまた違う研究です。
  • 最後のカタカナはソシュールの用語なので軽く解説すると「人間は生得的に言語を喋るのに必要な能力 (ランガージュ) を持っており, 社会の中で語彙や文法といった約束事 (ラング) が生まれ, ラングに照らし合わせながら一人ひとりがある場面において言葉 (パロール) を発するのだ」という考えに基づく用語です。ランガージュの研究は脳内の言語処理なんかを対象にし, ラングの研究はある言語を話す人間集団が共通理解として頭の中に持っている文法などを対象にし, パロール*1の研究は同じ言語を話す人間集団の中に存在する個人間の差異などを対象にします。

まとめると, ある言語の共時的なラングの状態を観察・記述するのが記述言語学です。この記述言語をやるのが言語学オリンピックです。

参考に言語学の中で記述言語学以外の領域にどんなものがあるのかというと, たとえば記述結果に基づいてその現象の動機や理論的背景を説明することを目的とする理論言語学 (代表的なものに生成文法, 認知言語学), 記述結果に基づいて言語間の相違点を見る対照言語学や通言語的に文法特徴をタイプ分類し通言語的な傾向や文法特徴同士の相関などを研究する言語類型論, 言語間の差異から系統関係を明らかにしたり祖語を再建したりする比較言語学, 言語の歴史的な変化を研究する歴史言語学や特に言語間の差異と文化の伝播や地理的分布などを証拠にある言語の変化の原因として他の言語からの影響を考える言語接触の研究, 言語産出にまつわるヒトの脳内の神経回路の働きを研究する神経言語学, 言語を言語外の社会や文化と結びつけて研究する社会言語学*2などがあります。他にも応用言語学, 言語哲学, 自然言語処理など, 言語学と他の分野の中間のようなものもあります。

記述には類型論が役に立つ

ここまで記述とはなにかという話をしてきました。客観的な分析のためには研究段階や態度を切り分ける必要があります。

しかし言オリを解く人や記述言語学者は未知なる言語に相対したとき, 仮説を立てたり記述結果を受け止めたり説明をしたりする段階では他言語の研究で用いられてきた概念言語類型論の知識をフル動員させます。さらに記述が終わった後も当該言語の特徴をつかむために自分の知っている他の言語と対照したり類型論的な位置づけを考えたり, あるときには類型論研究が導き出した(または言オリを解く人なら自分が考えていた)言語の普遍性に対して反例を出したり支持する結果だと述べたりします。このように記述をするにあたっても類型論を始めとする記述以外の分野と支え合うと深いことができます(逆に類型論的バックグラウンドのない記述は見るべきところを見れていなかったり, 言語のしくみを正しく言葉にはしているけれど変な一般化をしてしまっていたりします)。ただし答案に書くのは記述の部分だけで, 言語の普遍性について書いたりはしないし背景知識の有無を問うたりはしないので, 前節では「記述言語をやるのが言語学オリンピック」と言いました。

おそらくこれを強調しすぎたのが「言オリは知識が要らない」という言説です。実際は前述の通り背景知識や分析手法に関する経験・知識がないとちゃんと解けません。「言オリは言語学と関係ないパズル」というのも同様で, 記述手法だけを取りざたにし, さらにその分析手法が他の謎解きなどと共通していることをことさらに強調した言説です。一種のパズルだという表現は良いと思いますが言語学と関連がないというのは言い過ぎです*3

以上を踏まえて言語学オリンピックにおける「出題範囲」を考えると, 言語記述の手法がまず一つ, さらに背景知識として言語類型論 (+どの領域でも使うので○○言語学とは名づけようのない一般的な知識) が求められていると言えます*4

*1:個人的な考えですが, ラングという共有物かつ抽象的なものと, パロールという個別的かつ実体的なものの間に個別的だが抽象的なものが存在すると考えた方が良いと思います。個別的だが抽象的なものというのはある個人が脳内に持っている規則の体系でラングとは微妙に違っていて, たとえば誤用分析の対象になっているものがこれにあたります。それに対してパロールの研究は生み出されたもの自体を見る文学研究などを指すと考えます。パロールの研究に社会言語学があたるという考えをどこかで見たことがありますが, 社会言語学が対象としているのは使用集団が限定されただけのラングだと思います。

*2:これは記述に含めることもありそう

*3:IOL2019の団体戦などに関しては自信がなくなりますが……とはいえ新体操の表記法には線状性があったり, RNAには二重分節性があったりするので言語の特徴からそんなに外れていないし, 言語学と絡めて考えられはするなあと思いました。ただしバーコードはよく分からない

*4:なお注意点を補足すると, これは傾向でしかなく記述言語学以外が出る可能性を否定はできません。実際, 比較言語学はIOLでの出題経験がありますし上では挙げていない計算言語学の分野はNACLO(北米予選)等ではしばしば出ます。比較言語学は手法や必要な知識としては共時的な音韻体系の記述と共通するところがあるので手法/知識が同じならいいでしょみたいな雰囲気で出題されたんだと思います。計算言語学的な問題はIOL的には完全に非典型でNACLOの出題範囲はIOLと異なっています。

IOL2017-1 ビロム語解説

ふるほむです!今回は数式系の問題です。

問題

IOL2017-1 Birom (ビロム語) by Milena Veneva

http://www.ioling.org/booklets/iol-2017-indiv-prob.ja.pdf

難易度

やや難(40~60分)

使う情報

  • 11個の等式(問題bを含む)
  • (b) 3個の数
  • 「この問題のすべての数は0より⼤きく125より⼩さい」

ポイント

  • 先入観を入れずに構造から攻めよう
  • 候補が絞れるところを探そう
  • 底が分かれば一気に進む

解説

数式系の問題は半分は言語学, 半分はパズル(覆面算)です。覆面算も楽しいので調べてみてね。

前提を確認しよう

暗黙の了解として二つの強い傾向があります。

  • 問題中の数は負でない整数(0, 1, 2……)である。*1
  • 数と数詞は一対一対応する。ある数を表すのに複数の表現があったり, ある表現が色々な数を表したりはしない。*2

この先で基本数(≈一桁の数)と底(=位取りの数)という用語を使います。詳しくは現代日本語を例にした説明*3をお読みください。

今回はさらにもう一つ前提があります。

  • 「この問題のすべての数は0より⼤きく125より⼩さい。」

構造を整理しよう

実際に数をあてはめてみる前に, 表現のパターンを整理しましょう。大きく分けて3種類のパターンがあります。

  1. 一単語 (1. tùŋūn など)
  2. kūrū ná vɛ̀ ~ (9. kūrū ná vɛ̀ tùŋūn など)
  3. bākūrū bī~ ná vɛ̀ ~ (2. bākūrū bītīīmìn ná vɛ̀ ʃāātàt など)

~には一単語で出るものが入ります。1のような単純な表現は基本数(1,2,3…)か底の累乗数であり, 2, 3のような複雑な表現はそれらの組み合わせでしょう。また3は基本数が二つあることから二桁の数だと予想できます。さらにb問題の bākūrū bītāt を手がかりに, bākūrū bī~ が二桁目で ná vɛ̀ が "+, and" だと考えられます。2, 3 の共通点から kūrū が底の累乗数であり, kūrū は係数1の位で bākūrū は係数が2以上の位に出ると分かります(つまり bākūrū は kūrū の複数形)。なおこの分析に従うと 1 を表す要素は bākūrū bī~ のところにはでてきません。またここで kūrū がよく分からなくても後々で問題bの式Bを解けば分かります。

イメージ重視で直訳すると

  1. 一 > 1
  2. 十と一 > 11
  3. 十が二つと一 > 21

のようになっているということです。

語彙リストを作ろう

全体像を把握するために何の数を表すかは一旦置いておいて, 出てくるすべての語を列挙しましょう。余裕があれば基本数か, 底の累乗数か, それ以外(機能語)か構造を頼りに分類しておきましょう。翻訳課題の方もデータであることに注意してください。

底の累乗数: bākūrū, kūrū
基本数(単独の場合): tùŋūn, tàt, nààs, rwīīt, ʃāātàt, tàāmà, gwīnìŋ, ʃāāgwīnìŋ, bà, tìīmìn
基本数(二桁目の係数): bībā, bītīīmìn, bīnāās, bītūŋūn, bītāāmà, bītāt, ʃāābītāt
機能語: ná vɛ, ná gwɛ

さらにこうすると似たような語があることやほぼ同じ語でも微妙な違いがあることに気づけます。ʃāātàt, ʃāāgwīnìŋ, tàt, gwīnìŋ を見るに, ʃāā- という派生接辞があることが分かります。また ʃāābītāt から ʃāā- は bī- の前につくことが分かります。ná gwɛ は ná vɛ と何が違うのでしょう?(解説では最後の方で考えてあります)

他にも単独で出る基本数と bī- がついて出る基本数を見比べると声調(母音の上についている記号)が若干違うことが分かります。表にしてみましょう。

単独 bī- ~
tùŋūn bītūŋūn
tàt bītāt
nààs bīnāās
tàāmà bītāāmà
bībā
tìīmìn bītīīmìn
rwīīt
gwīnìŋ
ʃāātàt ʃāābītāt*4
ʃāāgwīnìŋ

よって bī- がつくと一音節目の声調が中平板 ¯ になると分かります。

語の内部構造や語形変化のような言語形式の分析は意味の分析より精度が高いのでどんどんしていきましょう。こういった分析をまあまあ進めてから数をあてはめると比較的すんなり解けると思います。

パズルを解こう

言語学的な分析が大体終わったのであとはパズルの時間です!共通点や候補が絞れるところを探しましょう。コツはとにかく色々試してみることです。最初に気になりそうなところをリストアップしてみました。

  • 1と6の右辺が同じ
  • 9は両辺の kūrū を相殺できる
  • 4の式 ʃāātàtgwīnìŋ = ʃāātàt
  • 前提の「この問題のすべての数は0より⼤きく125より⼩さい」ことからそもそも「~の~乗」が限られている
  • 2と8には tàtnààs と nààstàt があるのでさらに絞れそう

よって上三つからは

  • tùŋūn2 + tàt + nààs = bàtùŋūn
  • nààs + ʃāātàt = tìīmìn + bà + tùŋūn
  • gwīnìŋ =1 または ʃāātàt =1 (∵前提より0を表す数はない)
    ʃāātàt は問題bの式Aに bī- がついた形 ʃāābītāt が出てくることや, 派生接辞がついている点, 7の式が表す数の大きさ的におそらく1ではないと推測できるため gwīnìŋ =1

が分かります。

それからありうる「~の~乗」は以下ですべてです。(分けた上側の表は tàtnààs と nààstàt のようにひっくり返しても成立する範囲) (環境によっては隠れちゃってるかもしれませんが2は26まであります。)

21 22 (=4) 23 (=8) 24 (=16) 25 (=32) 26 (=64)
31 32 (=9) 33 (=27) 34 (=81)
41 42 (=16) 43 (=64)
51 52 (=25)
61 62 (=36)
71 72 (=49)
81 82 (=64)
91 92 (=81)
101 102 (=100)
111 112 (=121)

8. nààstàt = bākūrū bītūŋūn ná vɛ̀ nààs は一の位にも nààs が出てくるので候補が絞りやすそうです。ここに代入して考えてみましょう。その前にちょっとひねりをきかせて nààs を両辺から引いて, nààstàt - nààs = bākūrū bītūŋūn で考えると右辺は底 × 基本数なのでそれなりに大きく, 切りのいい数でなければ違うと言えてうれしいです。

nààstàt の横に nààstàt - nààs を()に入れて全通り考えてみました。

21 (0) 22 (2) 23 (6) 24 (14) 25 (30) 26 (62)
31 (0) 32 (6) 33 (24) 34 (78)
41 (0) 42 (12) 43 (60)
51 (0) 52 (20)
61 (0) 62 (30)

多くの場合異なる表現は異なる数字を表すということも考慮しましょう。nààs, tàt, tùŋūn はすべて違う数になってほしいです(さらに gwīnìŋ =1 なので1でもありません)。またふつう底は基本数より大きいです。

  • たとえば試しに nààstàt = 24 だとすると bākūrū bītūŋūn = 14 なので (tùŋūn, kūrū) は (2, 7) または (7, 2) になりますが nààs = 2 と仮定しているので矛盾し nààstàt ≠ 24 と分かります。

  • 今度は nààstàt = 34 としてみましょう。bākūrū bītūŋūn = 78 なので (tùŋūn, kūrū) = (2, 39), (39, 2) となります。被りはないですが, 39進法というのは微妙です。これはあとでちゃんと否定できます。

色々試していくと bākūrū bītūŋūn がうれしい値になる nààstàt は 25 (10×3), 43 (10×6, 12×5), 62 (10×3) ぐらいに絞れます。

nààs, tàt, tùŋūn の関係がかなり絞れたので今度は先ほど導いた tùŋūn2 + tàt + nààs = bàtùŋūn に代入してみましょう。

  • nààstàt = 25, (kūrū, tùŋūn) = (10, 3) のとき
    32 + 5 + 2 = bà3
    ⇔ 16 = bà3
    bà が整数にならないので違う

  • nààstàt = 43, (kūrū, tùŋūn) = (10, 6) のとき
    62 + 3 + 4 = bà6
    ⇔ 43 = bà6
    bà が整数にならないので違う

  • nààstàt = 43, (kūrū, tùŋūn) = (12, 5) のとき
    52 + 3 + 4 = bà5
    ⇔ 32 = bà5
    bà = 2 で成立!

  • nààstàt = 62, (kūrū, tùŋūn) = (10, 3) のとき
    32 + 2 + 6 = bà3
    ⇔ 17 = bà3 bà が整数にならないので違う

  • nààstàt = 34, (kūrū, tùŋūn) = (39, 2) のとき
    22 + 4 +3 = bà2
    ⇔ 11 = bà2
    bà が整数にならないので違う

よって nààstàt = 43, (kūrū, tùŋūn) = (12, 5) が確定しました!どうやらこの言語は 12 をかたまりとして見ているようです。分かった数を語彙リストに書き加えましょう。

数詞(基本数) 表す数
tùŋūn 5
tàt 3
nààs 4
tàāmà
2
tìīmìn
rwīīt
gwīnìŋ 1
ʃāātàt
ʃāāgwīnìŋ

分かった数詞を他の式に代入してこの表を埋めましょう。

  • 1. tùŋūn2 + tàt + nààs = bākūrū bībā ná vɛ̀ rwīīt
    ⇔ 52 + 3 + 4 = 12 × 2 + rwīīt
    ∴ rwīīt = 8

  • 5. rwīīt2 + bà + tùŋūn = bākūrū bītūŋūn ná vɛ̀ ʃāāgwīnìŋ
    ⇔ 82 + 2 + 5 = 12 × 5 + ʃāāgwīnìŋ
    ∴ ʃāāgwīnìŋ = 11

  • 9. kūrū ná vɛ̀ nààs + kūrū ná vɛ̀ ʃāātàt = kūrū ná vɛ̀ tìīmìn + bà + kūrū ná vɛ̀ tùŋūn
    ⇔ nààs + ʃāātàt = tìīmìn + bà + tùŋūn (kūrū × 2を両辺から引いた; ふつうに代入しても良い)
    ⇔ 4 + ʃāātàt = tìīmìn + 2 + 5
    ∴ ʃāātàt = tìīmìn + 3

  • 2. tàtnààs = bākūrū bītīīmìn ná vɛ̀ ʃāātàt
    ⇔ 34 = 12 × tìīmìn + ʃāātàt
    ⇔ 81 = 12 × tìīmìn + ʃāātàt
    ∴ (tìīmìn, ʃāātàt) = (6, 9)
    ※ʃāātàt < kūrū や他の数詞が既に5以下を表していること, 式9から導ける tìīmìn, ʃāātàt の差などが根拠

  • 7. ʃāātàt2 + nààs + tàt = bākūrū bītāāmà ná vɛ̀ nààs
    ⇔ 92 + 4 + 3 = 12 × tàāmà + 4
    ∴ tàāmà = 7

表を埋めて並び替えてみました。

数詞(基本数) 表す数
gwīnìŋ 1
2
tàt 3
nààs 4
tùŋūn 5
tìīmìn 6
tàāmà 7
rwīīt 8
ʃāātàt 9
ʃāāgwīnìŋ 11

問題b, cも解きながら残る謎について考えましょう。

  • 10 はどう表現する?問題cに22 (12+10 と表現されるはず) が出てくるので考えないといけない。
  • ʃāā‐ の役割は?
  • ná gwɛ は?

形から分析したいので一つ目は飛ばして二つ目の ʃāā‐ の役割について考えてみましょう。1 につけると 11 に, 3 につけると 9 になります。ヒントは「十時五分前」「残り3%」のような表現です。

これは(底に)「~足りない」という表現でしょう。12に1足りない>11, 12に3足りない>9 というわけです。ついでに10は ʃāābà と分かります。

ná gwɛ が出てくる表現も見てみましょう。AとBに出てきます (kūrū ná gwɛ̄ gwīnìŋ と bākūrū bīnāās ná gwɛ̄ gwīnìŋ)。 解説の都合上Bを見ます。

  • B. bākūrū bīnāās ná gwɛ̄ gwīnìŋ − kūrū ná vɛ̀ bà − kūrū ná vɛ̀ tàt = kūrū ná vɛ̀ rwīīt
    ⇔ bākūrū bīnāās ná gwɛ̄ gwīnìŋ − [12 + 2] − [12 + 3] = [12 + 8]
    bākūrū bīnāās ná gwɛ̄ gwīnìŋ = 49
    これは 12 × 4 + 1 なので ná gwɛ̄ も ná vɛ̀ と同じく「+, and」を表していると分かりました。意味に違いがないとなれば考えられるのは他の要素との関係や音韻条件です。隣の要素を見てみると二つのデータとも ná gwɛ̄ gwīnìŋ が続きます。gwīnìŋ が続くときには ná gwɛ̄ を使うと仮定すると反例なしなので説明完了です。*5

  • bākūrū ʃāābītāt − tàt − kūrū ná gwɛ̄ gwīnìŋ = bākūrū bītāāmà ná vɛ̀ rwīīt ⇔ [12 × 9] − 3 − [12 + 1] = [12 × 7 + 8] これは正しいので ná gwɛ̄ がちゃんと「+, and」であることが裏づけられます。

これで謎はすべて解明できました!

まとめ

この言語は12進法でした。10進法は指で数を数えたことから生まれたのでしょうが, 12進法を使う言語の話者は人差し指から小指までの節を数えているようです。

https://web.archive.org/web/20080329150110/http://www.kankyok.co.jp/nue/nue11/nue11_01.html

すべての言語が10進法であるわけではありません。フランス語のように元は20進法だったものが文化的に強い言語の影響を受けて一部10進数になってしまったものもあります。ここは言語によって色々バリエーションがあって楽しいです。ただ分析するときにはバリエーション豊かだと大変です。何進法か考えないでもできる構造の分析からやり, 構造から何進法か割り出しましょう。

答案をまとめます。


12進法を用いる。

数詞リスト

数詞 表す数
gwīnìŋ 1
2
tàt 3
nààs 4
tùŋūn 5
tìīmìn 6
tàāmà 7
rwīīt 8
ʃāātàt 9
ʃāābà 10
ʃāāgwīnìŋ 11
kūrū 12
  • ná gwɛ̄, ná vɛ̀ は + と同様の機能。次の語が gwīnìŋ なら ná gwɛ̄, それ以外なら ná vɛ̀ を使う。
  • ʃāā- は「~足りない」という意味で, ʃāā-X で 12̠ − Xを表す。Xには1~3が入る。

構造

1以上143以下の整数について,

  • 1~12: 数詞単独
  • 12×X (2≦X≦11): X=2~8なら bākūrū bī-X, X=9~11なら bākūrū ʃāābī-X´ (X´はXからʃāāを取ったもの)。このときXの第一音節の声調が中平板になる。
  • 12×X+Y (1≦X≦11, 1≦Y≦11): [12 × X] を表す表現に ná gwɛ̄/ná vɛ̀ を挟んでYを表す表現を続ける。

タスク

(a)

  1. 52 + 3 + 4 = 32
  2. 34 = 81
  3. 72 + 9 + 1 = 59
  4. 91 = 9
  5. 82 + 2 + 5 = 71
  6. 25 = 32
  7. 92 + 4 + 3 = 88
  8. 43 = 64
  9. 16 + 21 = 18 + 2 + 17

(b)

  • bākūrū bītāt: 36
  • ʃāāgwīnìŋ: 11
  • kūrū: 12

A. 108 − 3 − 13 = 92
B. 49 − 14 − 15 = 20

(c)

  • 6: tìīmìn
  • 22: kūrū ná vɛ̀ ʃāābà
  • 97: bākūrū bīrwīīt ná gwɛ̄ gwīnìŋ
  • 120: bākūrū ʃāābībā

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*1:IOL2003-2はこの例外ですが問題文で分数が出てくることが明記されています

*2:パーツレベルではありえます。たとえば英語のten, -teen, -tyはすべて同じ10という数を表します。しかしそれでも単に10というときはten, 15はfifteenのように決まっていて15がfiftenともいえるわけではありません。複数の数体系が併用されている場合は一つ一つの数体系の中でのみ通用します

*3:数詞もいくつかのパーツから成り立っています。なのでそのパーツがどう組み合わさっているのかを知ることがキーポイントになります。例えば現代日本語で3桁の数までを考えてみましょう。

表現
(0), 1~9, (10) 特別な語(以下D) さん
11~19 10-D じゅう-さん
2~9×10 D-10 に-じゅう
2~9×10+1~9 D-10-D に-じゅう-さん

10まではそのまま言えばokですが, それ以上は数を組み合わせます。組み合わせの際には10を「ひとかたまり」と意識して, 「二(個の)十(と)三」のように言うわけです。

少し変な振る舞いをするときもあります。

  • -D=0 なら -D は言わない(*さん-じゅう-ぜろ > さん-じゅう)
  • D=0 なら D-10 は丸ごとなし(*ぜろ-じゅう-に > に)
  • D=1 なら D-10 の D- はなし(*いち-じゅう-に > じゅう-に)

さらに大きな数についても考えてみましょう。

表現
100 100 ひゃく
101~199 100-D-10-D ひゃく-に-じゅう-さん
2~9×100+1~99 D-100-D-10-D に-ひゃく-さん-じゅう-よん

今度は100が「かたまり」として使われるようになりました。このように「かたまり」として使われる数は他に1000, 10000など, つまり10の累乗数です。一かたまりが一かたまりできてしまったので新たに名前を考え出した, というイメージです。それからパターンは繰り返しになっています。一桁の数(「さん」など)の次に「かたまり」(「ひゃく」や「じゅう」)をセットにして言って, そのセット(=位)を数が大きいものから順に繰り返すことで複雑な数を表現しているわけです(なので大きな数は表現が長くなります)。

このブログでは10のような「基本のかたまり」を底(bと略記 < base), 「かたまり」の系列を=底の累乗数(Bと略記), 日本語なら 1~9 にあたるパーツを基本数(Dと略記 < digit)と呼ぶことにします。基本数と底の累乗数のセットを位や桁と呼び, ある位の基本数を係数と名づけます。略記はなるべく避けます。

*4:ʃāābītāt が本当に ʃāātàt に対応しているのかは後々に問題cのAを分析することで確かめられます。

*5:想像の範疇を超えませんがたぶん 「+, and」の意味は ná が担っていて, gwɛ̄ と vɛ̀ は冠詞みたいなもので, 単数につくとき一致して gwɛ̄ になり, 複数なら vɛ̀ になる, ということだと思います。

IOL2014-5 北西バヤ語解説

ふるほむです!第二弾は複合語(語対応)のジャンルから北西バヤ語の問題を解説します。

問題

IOL2014-5 Gbaya (北西バヤ語) by Boris Iomdin

http://www.ioling.org/booklets/iol-2014-indiv-prob.ja.pdf

訂正: 訳の語群中の「死ぬ」→「死にかける」(英語版だと ”to be dying”)

難易度

やや難(所要時間: 30分〜60分)

使う情報

  • 17個の北西バヤ語の語句
  • 17個の訳
  • 北西バヤ語と訳の対応関係は分からないが☆一対一対応する
  • (b) 4個の北西バヤ語の語句
  • (c) 4個の訳(☆問題中の語を組み合わせて言える)

☆の2点は明記されていないですが重要な手掛かりになります。

ポイント

  • 意味からではなく形から分析しよう
  • 序盤は答えを確定できない, 分析は途中で訂正していこう

解説

よくある問題では問題の言語のデータそれぞれに訳がついていますがこの問題ではデータと訳がばらばらに並んでいてどれがどれに対応するのか分かりません。どのように解けば良いのでしょうか?

北西バヤ語の語句を見ると多くが二つの語の組み合わせになっています。訳の方も見ると「眼孔」「鼻孔」や「良い畑」「畑の端」のようになっています。そこで「目+穴」「鼻+穴」のように要素が組み合わさっていると考えたいです。このように訳の方を言い換えて北西バヤ語のデータにあてはめてつじつまをあわせていけば正解にたどり着けます。しかしたとえば「うらやむ」「死ぬ」「置く」「毒蛇」「幸福」はどんな要素が組み合わさっているでしょう?それともこれで一語でしょうか?おそらくこれら(の一部)は直訳だと日本語として不自然になってしまうために"意訳"されています。訳の言い換えから考えるといくらでもこじつけが出来てしまうので別の手がかりを使いたいところです。

マップを作ろう

こういうデータがばらばらな問題の場合, ある要素が何なのかを知るにはそれが「何回使われているか」「単独で出るか, 他の要素と一緒なら前後どちらに出るか」といったことが手がかりになります(次の節で解きながら説明します)。

そこで下準備としてマップを作りましょう。*1 同じ要素を含む語を隣同士にして並べていって最終的にすべての語句を一つの大きなマップに整理します。色々きれいに書くコツ*2はありますが, あまりに見づらければ書き直せば良いのでとりあえず最初に出てきた ʔáá から始めてみました。さらに kò がどうしても気になったので書きだしてみました。共通部分は線で繋ぎます。

f:id:fulfom:20190706004009p:plain
マップ作り途中経過

さらに nú, sèè も同様に, また別のも……と芋づる式にやっていくと最終的にこんなマップになります。

f:id:fulfom:20190706012226p:plain
マップ完成図

こうすればある要素が「何回使われているか」(=頻度), 「単独で出るか, 他の要素と一緒なら前後どちらに出るか」(=分布)が一目で分かります。似たような語句や他と関連がない語, 要素は全部で何種類かなども分かります。

頻度と分布が最初の鍵に

それでは下準備は終わったので解いていきましょう。頻度の多いものが分かりやすいので yík について調べます。上のマップの右半分のあたりを見てください。yík を含む語句は5個あり, 分布としては語句の最後に3回, 最初に1回, 単独で1回出てきています。単独で出てくるというのも大きな手がかりで, いかにも一単語っぽい語ものに可能性を絞れたり, 対応が分かったときに意訳ではなく直訳が分かったりして嬉しいです。

一つ一つに目を向けてみると búmá yík と búmá zù yík は要素も並び順も似ているのでかなり似た訳になっていると推測できます(しかも違う部分である zù は単独で出てきています)。それから yík wí には 同じく wí を語句の最後に持つ仲間が2ついます。この yík は何者でしょう?

今度は訳の方を見てみましょう。

表⾯に; 眼孔; 眉⽑; まつげ; ⽬/顔;
畑の端; ⾜; 幸福; 肝; 良い畑; ⿐孔;
上に; 毒蛇; ⾆の先;
死にかける; 羨む; 置く

訳同士の共通点を探します。たとえば「眼孔, 眉⽑, まつげ, ⽬/顔」は「目」という共通点がありそうです。「眉⽑, まつげ」には毛という共通点もありますね。これ, なんとなく先ほどの yík の特徴に似ていませんか?búmá yík と búmá zù yík は「毛 (+zù) +目」になり, 眼孔は yík wí か kò yík というわけです。yík は「目/顔」に対応するのでしょう。かなり信頼できる仮説が立てられました。すると yík 入りの語句が一つあまってしまいますが, 言い換えによって訳から目の意味が直接取れなくなっている可能性も考えられるのでとりあえずこれで進めてみましょう。この問題は新しい本棚に本を立てていくようなもので, データ同士が支え合うまでは完全に正しい仮説は立てられません。8割くらい正しい仮説を立てて進めて, 2割の間違いは進んだ後で変だと分かってきたときに訂正するのが良いです。

それから「同じものを含む」以外にも「身体部位である」や「場所関係を表す」「動詞である」「~の~ という形になっている」など様々な共通点を見つけて訳を分類しておくと良いでしょう。yík が「目/顔」なら他の身体部位も一語で表せるかもしれない, のような類推ができるようになります。実際身体部位は基本的な語彙なので一語で表す言語は多いです。データ中で一語で出るのは ʔáá, yík, zù で身体部位には「目/顔」「足」「肝」「舌の先」があり, 「舌の先」は二語かもしれないのでちょうど3つずつあってつじつまがあいます。しかしやっぱり意味はいくらでもこじつけができ, 言い換えがあって頻度も曖昧なのでこれを根拠に進めるのは微妙で, 北西バヤ語の形式から根拠を見つけたいです。

構造を調べよう

いくつか語句と訳の対応が分かったら要素の並び順を調べましょう。並び順というのは大事で, たとえば日本語で「スズメバチ」はハチですが「ハチスズメ」(ハチドリの異名)は鳥です。これはおおざっぱに言うと日本語が「A B」は「A の B」と解釈する決まりになっているからです*3。この言語の場合, búmá yík 「まつげ?眉毛?」は「毛+目」という順番なので日本語と逆です。ということは他の語も全部「A B」は「BのA」になっていると予想できます。すると「眼孔」は「穴+目」となるはずなので yík wí より kò yík の方が可能性が高そうと言えます。kò zòk は「穴+鼻」で「鼻孔」でしょう。

búmá yík と búmá zù yík についても考えてみましょう。どっちかが「まつげ」で一方が「眉毛」です。しかも zù は単独で出てくるんでした。訳の語群の中から「まつげ」と「眉毛」の微妙な意味の違いを作り出せそうなものを探しましょう。おそらく「上に」「表面に」のどちらかではないでしょうか。

ここで zù が身体部位ではないと気付いたことで先ほどの仮定が崩れます。yík wí と yík のどちらが「目/顔」か考えて直してみましょう。ふつう身体部位はよく使うので一つの要素で表す言語が多いです。なので yík が「目/顔」だとするのは説得力がありました。しかし今回の場合そうすると「肝」「足」も一語っぽいですが残っている一語の語は ʔáá 一つだけです。とりあえずどちらか ʔáá としてみても ʔáá sèè から sèè wí に行ったところで yík wí とつじつまがあわなくなり詰みます。他にも yík wí は「wí の目」という構成ですがそのような語は見当たりません。wí が動詞を表す仮説も上手く行きません。よって身体部位が一語で表される説はかなり微妙ということになります。ここで yík wí の方が「目/顔」説も検証する価値が出てきます。ではこの場合 yík は何でしょう?

一語の zù が「上に」「表面に」のような場所関係を表す語だったことから同じく一語で出る yík も 場所関係を表す語かもしれないという類推ができます。また búmá yík と búmá zù (b問題に出てくる) を見るに yík は zù と似た場所に出てくるので似たジャンルの要素かもという予想もできます。こうした色々な根拠から yík は「目/顔/表面or上」のような意味の広がりがある要素で, 単独で使うと「表面にor上に」, 後ろに wí をつけると「目/顔」のような身体部位, 他の要素と一緒に使うと「目」という意味になると言えます。日本語でも「面(メン, つら)」は「表面に」にも「顔」にもなるので場所関係と身体部位を同じ要素で表すというのはそんな変な想定ではなさそうです。*4 そしてどうやら wí が身体部位を表す要素であることが分かったので問題に出てくる「頭」は「上+wí」ではないかと推測できます。よって yík は「表面に」にし zù の方を「上に」と対応させる方が良さそうです。ちなみにすると búmá zù は「毛+上/頭」なので「髪の毛」になります。(これも「カミの毛」なので日本語と同じです!ちょっとうれしい!) それから察しの良い人は ~ wíが「wí の~」という構成であることから wí が「人」という意味であると気づけるかもしれません。気づかなくても解くことはできます。

こうして wí の謎が解けたら色々進みます。náng wí と sèè wí はどっちかが「足」でどっちかが「肝」でしょう。それから b問題に lébé wí があるので lébé も身体部位も表す語だと分かります。よって nú lébé が「舌の先」です。nú が「先」なので nú fò が「畑の端」でしょう。nú は「先/端」の意味で, fò が「畑」です。dí fò は「良い畑」で, ここだけ前に修飾語が来ますが形容詞っぽいものは前に置かれ, 名詞は後ろからかかると考えられます。dí sèè は 「良い足」か「良い肝」ですが残っている語は「幸福, 毒蛇, 死にかける, 羨む, 置く」です。先に3回出てくる ʔáá を無難に「置く」だと分析すると ʔáá sèè は「足を置く」または「肝を置く」です。「心(心臓)」や「肝が冷える」など内臓に感情が宿るとする表現を思い出すと sèè は「肝」で良さそうです。dí sèè は「良い+肝 = 幸福」, ʔáá sèè は「置く+肝 = うらやむ」, 消去法で náng wí が「足」になり, ʔáá náng nú kò は「置く+足+端+穴」で動詞「死にかける」に対応すると分かります。dáng gòk が「毒蛇」です。c問題には言い換えが必要な訳が出てきますが, データ中の要素だけで表現できるという点がヒントになるので見てみましょう。「中に」は sèè 「肝/中に」一語でしょう。「不満」は「幸福」の対義語なので「悪い+肝」でしょう。dáng gòk 「毒蛇」を半ばこじつけで「悪い+蛇」と分析します。「不満」は dáng sèè になります。その他「⿐」は zòk wí, 残ったb問題もやると lébé gòk は「舌+蛇 = 蛇の舌」, lébé wí は「舌」となります。これで全部つじつまがあいました!

まとめ

頻度や分布, 構造といった形式の方面から攻めましょう。最後の言い換えの飛躍さを見て意味から入ると解きにくそうなことが分かるかと思います。また解説なので省いていますが行間には何度もの試行錯誤があるはずです。試行錯誤をなるべく減らすために想像力はできるだけ最後の最後で形に意味をこじつけるときまで取っておいてください。*5 それでは答案をまとめます。

説明

  • 構造
    • 名詞同士なら後置修飾
    • 「良い」「悪い」のような形容詞は前置される
    • 動詞は先頭に置く
  • その他
    • 身体部位と場所関係は同じ語根で表される。語根単独では場所関係を表し, wí 「人」を後置して「人の~」という複合語にすると身体部位を表す。

タスク

(a)

北西バヤ語 構成 対応する訳
ʔáá (置く) 置く
ʔáá náng nú kò (置く+⾜+端+⽳) 死にかける
ʔáá sèè (置く+肝/中) 羨む
búmá yík (⽑+⽬/表面) まつげ
búmá zù yík (⽑+頭/上+⽬/表面) 眉⽑
dáng gòk (悪い+蛇) 毒蛇
dí fò (良い+畑) 良い畑
dí sèè (良い+肝/中) 幸福
kò yík (⽳+⽬/表面) 眼孔
kò zòk (⽳+⿐) ⿐孔
náng wí (⾜+⼈)
nú fò (端+畑) 畑の端
nú lébé (端+⾆) ⾆の先
sèè wí (肝/中+⼈)
yík (目/表面) 表⾯に
yík wí (⽬/表面+⼈) 顔/⽬
(頭/上) 上に

(b)

北西バヤ語 構成 対応する訳
búmá zù (⽑+頭/上) 髪の毛
(⽳)
lébé gòk (⾆+蛇) 蛇の⾆
lébé wí (⾆+⼈)

(c)

北西バヤ語 構成 対応する訳
sèè (肝/中) 中に
zù wí (頭/上+⼈)
dáng sèè (悪い+肝/中) 不満
zòk wí (⿐+⼈)

*1:なんでマップ作るようになったの?という方向けに説明すると, ある要素の頻度と分布を見るには要素ごとにその要素を含む語句をリストにしたり数えたりしていけば良いのですが色々悩みどころがありました。たとえば要素ごとに別のリストを作ると複数の要素からなる語句は何度も書かなければいけなかったり, 解釈を変更するたびに何か所も書き直さなければならず作業負担が大きい; 情報量も多くなるので見にくく, 試行錯誤しにくくなる; 語句リストを諦めて各要素の頻度だけを数えるともう一つの大きな鍵である「分布」の情報がまるきり抜けてしまう, etc. そこでリストを合体して一つにしてみたらそういった問題が解消してとても解きやすくなりました。ので解説でも採用しています。複合語の他にも似たようなばらばら系の問題や親族名称の問題でも有効です。

*2:なるべく多く出てくる語や長い語を中心において始めるときれいに書けます。語と語の幅は大きめに空けましょう。ほかにも語と語をななめに並べるようにしていると三角関係になってもきれいに書けます。色を使うのもいいかもしれません。研究してみてください!

*3:前置修飾, 従属部先行型ということが言いたいです。もちろん「草木」のような並列関係や「鈴木課長」のような同格関係もありますが本文では混乱しそうなので省きました。

*4:場所関係にも身体部位にも使える語彙としては他に日本語「中/お腹」や英語 ”bottom” が挙げられます。

*5:実際には意味の想像からやって勘で当たってしまうこともありますがそういう場合は特に試行錯誤が必要です。

IOL2018-2 ハクン語解説

ふるほむです!ブログ始めました! id:tungumalanna さんと協力して言語学オリンピックの解説などを載せていきます。

問題

IOL2018-2 Hakhun (ハクン語) by Peter Arkadiev

http://www.ioling.org/booklets/iol-2018-indiv-prob.ja.pdf

難易度

やや難(所用時間: 40~60分)

使う情報

  • 10個の日本語訳付き例文
  • 6個の日本語訳なし例文

ポイント

  • 人称の階層と方向性
  • 能格

解説

まずはどんなタイプの問題なのかを確認しましょう。ジャンルは文を分析する問題です。特に問題になっていそうな文法カテゴリーは

人称, 時制, 自動詞文/他動詞文

なのでこれらに注目して整理することにします。

形態素に分けて構造を整理しよう

最初は何としてでも形態素解析と語順(構造)の整理をしなければなりません。突破口になりやすいのは日本語訳の中で最も出てくる回数が多い内容語です。この問題の場合は5個の文に出てくる「見る」から始めると良いでしょう。

「『見る』が含まれている 3, 5, 7, 9, 10 の文には出てくるが, 他では出てこない形態素」を探すと lapkʰi がヒットします。なのでこれが「見る」でしょう。動詞の語形はどれも同じなので何か接辞がついている可能性はなさそうです。同様に他の語も「それが含まれている文には出てくるが, ほかの文では出てこないパーツ」を適宜探していきます(語彙リストを作っていくと分かりやすい)。

動詞がどの部分で表されているか分かったので今度は人称や時制が何で表されているのか気になります。分析が進んでいる上記5つの文のうち 5, 10 のペアと 3, 7 のペアは動詞も目的語も共通なので分かりやすそうです。見てみると, 5, 10 は動詞の直前の語がどちらも ŋa なのでこれが「私を」を表していると予想できます。3, 7 でも同じく動詞の直前の位置で ati が共通して出てきます。この4つのデータから「目的語は動詞の直前に置かれる」ということが分かります。

今度は主語について観察しましょう。主語の同じ 2, 5, 8 の3つや 6, 9 のペアを見るに主語は文の最初に現れるようです。

残る時制は消去法で動詞の直後に出てくる語に含まれているだろうと推測できます。ただし形のバリエーションが時制のパターンより多いので, 時制以外の文法カテゴリーも合わせて複合的に見る必要がありそうです。

また文末の ne は全ての文に出てきます。ということは使うときと使わないときとの区別を考える必要がないので分析は不要です。(ですが通言語的に有標であることが多い疑問の形式*1が出てこないとは思いにくいのでこれが疑問詞だろうと推測することはできます。この解説では ne と書きます。)

よって文構造について整理すると,

主語 (目的語) 動詞 時制+?ne

となっていることが分かりました。ついでにデータ中で1個しかなくて分からなかった語彙が文構造を頼りに特定できるようにもなりました。

主語と目的語を整理しよう

それでは主語と目的語について表を作りましょう。-bə や kəmə が主語の一部かどうかは怪しいですが, 無理に分解しても結局何を表現しているかが現時点では分からないので表に入れておきます。

主語

単数 複数
1人称 ŋa / ŋabə nirum*2 / nirum kəmə
2人称 nɤ / nɤbə nuʔrum kəmə
3人称 ati kəmə tarum kəmə

目的語

単数 複数
1人称 ŋa nirum
2人称 nuʔrum
3人称 ati -

さらに表の観察から,

  • 主語と目的語には共通部分がある。
  • 目的語はその共通部分だけで何もつけなくて良くて, 主語は何かがついたりつかなかったりする。

と分かります。ついでにこのことから目的語の3人称複数は tarum だと分かります。

では主語に何かがつくときとつかないときの違いは何でしょうか?2 では「あなたは」が nɤ で出てくるのに対し 5, 8 では nɤbə で出てきます。1, 3 に目を向けると「私は」を表すものとして ŋa と ŋabə の二つが出てきています。この -bə がつく 1, 2 の文とつかない 3, 5, 8 の文との違いは何でしょうか?

現れる環境を比べると, -bə のつくときは他動詞文だと分かります。もう一つの2人称複数に出てくる kəmə についてもこの類推で他動詞文の主語につくんじゃないかと仮説を立てて観察すると無事反例が見つかりません。-bə や kəmə は同じ機能で人称によって形式だけが変わるのだと言えます(-bə と kəmə はほぼ同様の位置に現れ相補分布もしています)。他動詞文と自動詞文で分けて文構造を整理しましょう。

自動詞文

主語 動詞 時制+? ne

他動詞文

  • 主語が1sg/2sg
主語-bə 目的語 動詞 時制+? ne
  • その他
主語 kəmə 目的語 動詞 時制+? ne

-bə と kəmə を能格標識だと考えれば格を分離して以下のようにも書けます。

文構造

主語 (目的語) 動詞 時制+? ne

  • 格は名詞の後ろにつける。
  • 能格(=他動詞文の主語につくもの)

    • 1人称単数, 2人称単数: -bə
    • それ以外: kəmə *3
  • 絶対格は無標(=自動詞文の主語と他動詞文の目的語には何もつかない)

人称の表も考察結果を反映させてシンプルにしましょう。

人称

単数 複数
1人称 ŋa nirum
2人称 nuʔrum
3人称 ati tarum

謎の機能語について考えよう

残る謎は「時制+?」としているものです。語形は多様ですが, 時制は2パターンしかないので, 人称など他の文法カテゴリーも表しているのだろうと推測できます。作業を円滑に進めるために主語, 目的語, 時制, 「時制+?」の語形を文の番号順に抽出しておきました。

主語 目的語 時制 語形
1 1sg x 現在
2 2sg x 過去 tuʔ
3 1sg 3sg 過去 tɤʔ
4 1pl 2pl 現在 ki
5 2sg 1sg 現在
6 3pl 2sg 過去 tʰu
7 2pl 3sg 現在 kan
8 2sg 3sg 過去 tuʔ
9 3pl 1pl 現在 ri
10 3sg 1sg 過去 tʰɤ
a1 2sg x ? ku
a2 3sg 1pl ? tʰi
a3 3pl 2pl ? ran
a4 1pl 3pl ? ki
a5 1pl 2sg ? tiʔ
a6 1pl x ? tiʔ

まずは時制だけに注目してみましょう。

  • 現在: kɤ, ki, rɤ, kan, ri
  • 過去: tuʔ, tɤʔ, tʰu, tuʔ, tʰɤ

よって時制を表すのはkanに出てくる n 以外の子音(以下Cとする)だと分かります。現在なら kV, rV, 過去なら tVʔ, tʰV という形(Vは母音, ただし an も含める)で現れています。二つずつありますので, 子音部分は主語や目的語の人称など別のことも表し分けているかもしれません。(注 t とʔ は別々のものと考えたくなりますが常にセットで出てくるので一つのものとしましょう)

今度は主語や目的語の人称について整理しましょう。自動詞文と他動詞文で振る舞いが異なるかもしれないので, データの多い他動詞文だけに限定します。再帰は今回データにないのでグレーの影をつけています。縦軸が主語, 横軸が目的語です。そしてVでも色分けしてみました。

Sbj \ Obj1sg1pl2sg2pl3sg3pl
1sgtɤʔ
1pltiʔkiki
2sgtuʔ
2plkan
3sgtʰɤtʰi
3plritʰuran

すると, 以上の表から先ほどVと置いたところが主語か目的語の人称を表しているのが分かります。

人称 1sg 1pl 2sg 2pl
V ɤ i u an

主語か目的語が1人称であれば1人称に, そうでなければ2人称に一致しています。ここで簡単に説明をするために人称の階層という概念を導入します。1>2>3という階層をたてると, 主語か目的語かによらず人称の階層の高い方だけが表示されていると言えます。自動詞についても検証してみるとこの説明でカバーできていると分かります。

同じ表を今度はこう見てください。kV と tVʔ は表の右上だけに, rV と tʰV は表の左下だけに現れています。

Sbj \ Obj1sg1pl2sg2pl3sg3pl
1sgtɤʔ
1pltiʔkiki
2sgtuʔ
2plkan
3sgtʰɤtʰi
3plritʰuran

表の右上というのは主語→目的語が 1→2, 1→3, 2→3 つまり主語の方が目的語より人称の階層が高い場合です(順行)。表の左下は主語→目的語が 2→1, 3→1, 3→2 つまり主語の方が目的語より人称の階層が低い場合です(逆行)。 Cと置いた部分は時制と行為の方向性を表していたのでした。また自動詞文では順行形で出てきます。まとめた表が以下です。

現在 過去
順行 kV tVʔ
逆行 rV tʰV

全ての形式が説明できたので答案をまとめます。

まとめ

設問(a), (b)

  1. あなたは眠るか?
  2. 彼は私達を見たか?
  3. 彼らはあなた達を知っているか?
  4. 私達は彼らを殴るか?
  5. 私達はあなたを知っていたか?
  6. 私達は行ったか?
  7. ŋabə nɤ lan tɤʔ ne
  8. tarum kəmə ŋa lapkʰi tʰɤ ne
  9. ati kəmə nɤ cʰam ru ne
  10. nuʔrum ʒip kan ne

説明

文構造

主語 (目的語) 動詞 語X ne

  • 格は名詞の後ろにつける。
  • 能格(=他動詞文の主語につくもの)
    • 1人称単数, 2人称単数: -bə
    • それ以外: kəmə
  • 絶対格は無標(=自動詞文の主語と他動詞文の目的語には何もつかない)

語X

  • CとVの二つを組み合わせて作られる。

C

  • 行為の方向性を表す。人称の階層は1>2>3。自動詞文では順行形が使われる。
現在 過去
順行 kV tVʔ
逆行 rV tʰV

V(上記C中のVの位置に入る)

  • 主語か目的語かによらず人称の階層の高い方に一致する。
1sg 1pl 2sg 2pl
V ɤ i u an

*1:https://wals.info/feature/116A#0/22/155

*2:1人称複数の nirum は(a)-5 に出てきます。

*3:kəməを接語と分析して=kəməと表記してもok。すると後置されることをわざわざ言わずに済んで嬉しい。